OUTSIDE IN TOKYO
GEORGES GACHOT Interview

ジョルジュ・ガショ『ジョアン・ジルベルトを探して』インタヴュー

3. マーク・フィッシャーはドイツ人で、ドイツ人の時間感覚を持ってブラジルに行ってしまった。
 私が今思うのは、彼にもっと警告すべきだったんじゃないかということです。

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OIT:かつて、僕がブラジルに遊びに行った時に、ブラジル人の友達に今何時?っていう風に時間をよく聞いたんです。そうしたら、何で日本人は時間ばかりそんなに気にするんだって怒られたんですよ(笑)。今の話を聞いてると、ひょっとしたらブラジルの人というのは、時間はリニアに過ぎ去っていくものではないと考えているのかなと思いますね。
ジョルジュ・ガショ:それと同じことが、マーク・フィッシャーに関しても言えると思うんです。彼はドイツ人で、ドイツ人の時間感覚を持ってブラジルに行ってしまったわけです。ですので、私が今思うには、彼にもっと警告すべきだったんじゃないか、ドイツ人が当たり前だと思っている、こういう風にやったら次はこういう風になってという具合に、キチンと物事が進むのではなくて、ブラジルではあることをやるのに5週間かかるかもしれない、それが6週間に延びるかもしれない、ひょっとしたら3ヶ月になるかもしれない、それがブラジルなんだっていうことを彼にもっと警告する人が必要だったんじゃないかという風に私は思います。

OIT:マーク・フィッシャーは著書が発売される直前に亡くなってしまったということですが、この映画を撮る前に、その辺をどういう風に考えてスタートさせたのでしょうか?
ジョルジュ・ガショ:それはすごく難しい質問ですね、というのは自分自身もまだはっきりと整理がついていないので。

OIT:しかし、映画を拝見していると、監督は旅をされて、色々なミュージシャンの家にお話しを伺いに行っていて、音楽好きとしては、非常に素晴らしい時間を過ごしたんじゃないのかなと思って観ていました。
ジョルジュ・ガショ:そうですね、確かにおっしゃる通り私は色々な音楽家にも会うことが出来た、私にとっても家族のような人達ですから、本当に楽しいプロセスでした。ですから彼らのためにも一番いいシーンを撮りたいという気持ちで撮影をしていたのは事実ですし、探偵ごっこのような側面もあったわけですから、それ自体もとても楽しかったんです。ただその後パリで編集作業を行いましたがが、これに約1年くらいかかりましたけれども、私のコメントを考えたり、ナレーションを考えたりとかしなければならなくて、それがすごく大変でしたね、かなり辛かった。特にいくつかのシーンに関して、例えば最後のシーン、最後のシーン以外のいくつかのシーンに関してもそうですが、すごく精神的に辛いシーンもありました。最終的な形に持っていくための編集作業はとても辛いもので、編集のジュリー(・ピラット)は、もう最後のシーンが出来た時は泣き出してしまったくらいで、私達は精神的に非常に追い込まれて作業を行っていました。多分、映画全体をご覧になって最後にあのシーンが出てくる、全体の中の一部としてご覧になる場合はあまり感じないかもしれませんけれども、最後のシーンや他の幾つかのシーンに関しては、私達が表現したいと思っていることが実際に表現されるまでに持っていくためのその過程はとても辛いものがありました。

OIT:最後のシーンというのは、実際に撮影をしたのはあそこのホテルで撮影をしたのが最後なんですか?
ジョルジュ・ガショ:あれが、ほとんど最後の撮影でした。私達の撮影の様子を簡単にご説明しますと、まず最初の2週間で色々な取材とか調査を行いました、次の6週間がメインの撮影だったんです、その撮影の時に(ジョアン・)ドナートとかミウシャのシーンを撮ったりしたわけです。それをやった上で更に2週間、2回目の撮影の時間をとりまして、その時に前の6週間で撮れなかったところとか、最後に出てきたマネージャーのシーンとか、そして最後のシーンですね、ドアの向こうで音楽を奏でるというシーンをその最後の2週間で撮りました。ですからあのシーンは本当に撮影プロセスの最終段階で撮ったものになります。

OIT:音もあのように聴こえていたんですか?
ジョルジュ・ガショ:そうです、ですから彼がそのドアの向こうに居たっていうことですね。今まで色々な人に聞かれたんですけれども、あの後、彼がドアを開けて出てきたんじゃないの?とか、マネージャーが録音を単に再生してただけなんじゃないの?とか。でも私にはわかりません。

OIT:最後の質問になりますが、この映画が撮られた後、ミウシャさんが亡くなり、つい先日ジョアン・ジルベルトも亡くなってしまった。この映画はぎりぎり間に合ったというか、ミウシャさんもカメラに納めることが出来た。果たして、ジョアン・ジルベルトはこの映画を観たのでしょうか?
ジョルジュ・ガショ:結論として言えば、観たかどうかはわかりません。マネージャーに聞いてみたんですけど、あまりはっきりしたことを覚えてなかったし、観たとしても部分的に観ているだけかもしれない、まあでも最終的にはっきりとしたことはわからないです。彼が映画館に行くことはないでしょうけれど、今年の初めに、ブラジルのテレビでこの映画が放映されたんです、その時点で彼はまだ生きていたわけですから、彼はテレビは観るという風に聞いていましたので、その機会に観た可能性はあると思います。



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