OUTSIDE IN TOKYO
Gaspar Noe Interview
ブリュノ・デュモン『ハデウェイヒ』インタヴュー

『カルネ』『カノン』、陰鬱なおとぎ話の世界と、過激な描写で話題をさらって以来、本数は少ないながらも、特異な映画作家として君臨してきたフランスのギャスパー・ノエ。彼の映画こそ、好きか嫌いかがはっきり分かれると言っていい。そしてそれは彼にとって褒め言葉に違いない。そして次に撮った、既にスターだったモニカ・ベルッチとヴァンサン・カッセル夫妻を主役に、レイプ・シーンから逆回転で物語を進めるショッキングな『アレックス』でさらに賛否両論の渦を巻き起こしたものの、それからオムニバスなどに参加しながらも、7年の月日が流れていた。そして萬を持して発表されたのが、東京を舞台にした新作『エンター・ザ・ボイド』。オーストラリアから日本にやってきて、最初は英語を教えていたものの、外国人ゆえの心地よさと匿名性から居着き、クスリの売人を始めながら、歌舞伎町に暮らし、生き別れていた妹を呼び寄せるところから映画は始まる。東京で彼が撮影しているという噂はその時流れていて、私の知り合いもオーディションなどに行っていたが、ソフィア・コッポラの『ロスト・イン・トランスレーション』があるだけに、どうなるのだろう、という感じだった。だがそこはノエらしく、好き嫌いの分かれるであろう映画を完成させた。東京の混沌、ドラッグ、『死者の書』、生まれ変わりなど、物語は様々なヒントを残しながら進み、独特の世界感へ流れていく。本インタヴューで彼の説明を読んでも、実際に映画を見なければ分からないかもしれないが、もし観る前、観た後に気に留めてもらえるなら、とても興味深い話になるはず。

1. 『アルタード・ステーツ』のリメイクをやりたいと思っていた

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):映画が完成して、取材は大変ですか?
GASPER NOE(以降GN):さっきは塚本晋也(『鉄男 THE BULLET MAN』)と3本取材をやったよ!みんなにどうやって2人が会ったか聞かれたよ(笑)。

OIT:確かに2人はかなり昔に出会ってるんだよね?まだ互いのキャリアの最初の頃に。
GN:そう、8年前に。僕がまだ髪の毛があった頃さ(笑)。

OIT:そうか(笑)。
以前、ヴィンセント・ギャロの日本での展覧会(原美術館)にあなたの写真があったよね?
GN:裸のでしょ!

OIT:そう、あれもずいぶん前だね。ギャロとは連絡をとってる?
GN:うん、彼とはしばらく会ってないかな。最近では2年前にフランスで会って以来かな。いや、最後に会ったのは、この映画を撮り始めた頃だから、2年前だね。

OIT:では、同じ質問は聞き飽きただろうけど、7年ぶりの映画として、その間、何をしていたの?
GN:えっ、この映画が作れるように奮闘していたんだよ(笑)。

OIT:ずっと?それだけ長くかかったってこと?
GN:そうなんだ。アフリカでドキュメンタリーを撮り、ミュージック・ビデオも撮ったけど、これと言って大きな仕事はやっていなかった。というのは、たくさんの企画を断っていたからなんだよね。いつもプロデューサーたちが脚本を持ってくるんだけど、僕は全て断っていた。しかも読まずに!そして唯一、やりたいと思っていたのが、あの『アルタード・ステーツ』(80/ケン・ラッセル)のリメイクだ。その頃は、この映画のことをやっているか、『アルタード・ステーツ』の続編の権利を持っているプロデューサーと話すことだった。でも僕は、「違うんだ、やりたいのは続編じゃなくて、リメイクなんだ」って言っていた。そして最終的に、その企画に関わっていたのが(この映画と同じ制作会社の)ワイルド・バンチで、プロデューサーたちをこの企画の始動へと動かしたんだと思う。今、彼にGOサインを出さないと、『アルタード・ステーツ』のリメイクの方に行ってしまうからって。でも実際、サイコティックな映画をやりたいと思いながら、ずっと待ち続けていたんだ。でも、そっちじゃなくて、この映画をやって本当によかったと思う。なにしろ、アメリカのスタジオと仕事するのは、ある意味、すごく大変なことだから。映画に対して完全なコントロールを与えるという約束をもらっても、実際にはそうならなかったりするからね。

OIT:そうだね(笑)。
GN:まあ、部分的なコントロールは与えられるかもしれないけど、この映画であったようなコントロールは持てないないものだから。

OIT:『アルタード・ステーツ』の話が出たけど、あなたがやるならどう作るつもりだった?もちろん、ふつうでないものをやると思うんだけど。
GN:そうだね。でも実際はやらなかったから、どうしてたかなんて今は言えないよ(笑)。

OIT:そのあとは他の誰かが引き継いだのかな?
GN:いや、もう脚本はあったんだ。続編だからね。それにまだその続編は映画化されるかもしれない。僕は当時、スタジオで働いていたプロデューサーを知っていただけだから。そのあと彼はスタジオを離れたし、今はその企画を誰が担当しているのかも分からないよ。

『エンター・ザ・ボイド』
原題:Enter The Void

5月15日(土)シネマスクエアとうきゅう他にてロードショー

監督/脚本:ギャスパー・ノエ
製作:ブラヒム・シウア、ヴァンサン・マラヴァル、オリヴィエ・デルボスク、マルク・ミソニエ、ピエール・ブファン、ギャスパー・ノエ
撮影:ブノワ・デビー
SFX:ピエール・ブファン
出演:ナサニエル・ブラウン、パス・デ・ラ・ウエルタ、シリル・ロイ

2010年/フランス/35mm/カラー/シネスコ/ドルビー/英語/143分
配給:コムストック・グループ
協力:アニエスベー

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レイティング R-18+

『エンター・ザ・ボイド』
オフィシャルサイト
http://www.enter-the-void.jp/


フランス映画祭2010
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