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Press conference

ダスティン・ホフマン『カルテット!人生のオペラハウス』記者会見全文掲載

2. ポルトガルには103歳の現役映画監督もいらっしゃいます

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Q:あなたは映画界の伝説的存在であり、映画の出演者も伝説的な音楽家の面々ですが、この映画は敷居を高くすることなく、映画や音楽にそれほど詳しくなくても楽しめる作品に仕上がっています。そのために工夫なさったことはありますか?
ダスティン・ホフマン:良い質問をしてくれました。誰でも楽しめるようにする、それは、この映画が人生についてのものだからです。「人生」なんて小さい頃は認識すらしていない。ティーンエイジャーになり、二十代、三十代と年齢を重ねる。年寄りは居たとしても自分の現実とはかけ離れた存在でしかありません。そしてある朝、目覚めて自分が年老いたことに気づくのです。両親や祖父母をまた違った風に見るようになります。歳を取り、身体の自由が効かなくなった年齢の人達を撮った映画がこれです。こんなに不自由なことはないと嘆かずにはいられない人もいれば、目が弱る人もいる。そんな状態で、毎日をこれまでとは違う風に生きていく年寄りは、一人一人がヒーローだと思います。
例えばマギー・スミスも慢性的な股関節痛持ちです。目も悪いので撮影していないときは照明を消す必要がありました。作中同様、実生活でもあの通り杖を使っています。そこを観て感じて欲しいのです。
この「老い」という現実は、観客の両親、祖父母、若しくはその人自身がいずれは経験することなのです。

私は、パラリンピックに感動させられます。脚や腕がなくても競争の場にでる。これこそ、どんな状態でも人生を生きることが出来るという証明だと思っています。
Q:今回70代で初めて監督デビューというニュースに驚きました。引退する年齢で新しい経験を初めるのは躊躇するでしょうから、勇気づけられた方も多いでしょう。大人になるに従い初体験は少なくなりますが、70代の初監督作品に際して面白かったことと困難だったことを教えて下さい。また今後、更に挑戦してみたいことがあれば教えて下さい。
ダスティン・ホフマン:質問は3点ですね?
まず、最初のご質問について。老いても挑戦し続けたいと思うのは私に限りません。言うなれば、「老齢改革」の起点に私達はいるのです。私は75歳と半分(笑)になりました。ですが、二日程前に新聞で読んだ記事に、みなさんもテレビで観てご存知かもしれませんが、90歳のおばあさんが、60歳代の子ども達が見守る中、スカイダイビングを初体験したことが書かれていました。このニュース、ご存知ですか?
また、ポルトガルには103歳の現役映画監督もいらっしゃいます(言わずと知れた、マノエル・ド・オリヴェイラのこと)。

2つめの質問の答えになると思いますが、台本を読んだ時に現存する偉大なる音楽家や名優、マギー・スミス、ビリー・コノリー、トム・コートニーやポーリーン・コリンズの面々に出演して貰うのはどうだろうと考えました。オペラ歌手を、引退した本物の歌い手に演じて貰おうと。そうすればドキュメンタリー的な要素も加わりまた違った映画になるのではないかと思ったのです。

出演者達は皆、朝早くから出てきました。70、80、90代の方々が寒空の下、朝6時にはロケ現場に来るのです。低予算映画ですから撮影時間は日に12〜14時間に及びますが、感謝と喜びと情熱を持って撮影に臨んで下さいました。 これは撮影する側にもかつてない経験でした。彼らは命を吹きかえしたようでした。映画がどうなろうとも、この復活劇の真只中に居合わせた幸運に価値があると思えたほどでした。
スクリーンに映るものは全てライブで撮られたものです。正にその瞬間に演奏されていたものです。彼らが演奏し、彼らが歌いました。だから、エンドロールにクレジットとして写真を使わせて貰っています。

最後のご質問について。この中で「歳をとりすぎているからクビだ。」と言われたご友人や、ご両親、または祖父母をお持ちの方は何名ほどいらっしゃいますか?
この映画はリタイアメントホームでの物語です。登場人物はリタイアすることを拒んでいます。社会や文化様式により自分の人生に終止符が打たれることをよしとしない。俳優陣も私も全員70代で、40年から50年を芸事に捧げてきました。それがここ数年「悪いけど、歳をとりすぎているからこれは無理だね」と言われるようになった。「出来る、出来ないは自分で決める。方法は自分で探すよ。」と言えるだけの自分のリアルな現状を明確にする、それがこの映画をつくりにあたっての意気込みでした。


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