OUTSIDE IN TOKYO
JEAN-PIERRE & LUC DARDENNE INTERVIEW

ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ『少年と自転車』インタヴュー

4. 光や暖かさを映画にもたらしてくれる女優、セシル・ドゥ・フランスを選んだ理由はそれです

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Q:今回のサマンサを演じたセシル・ドゥ・フランスについてお伺いしたいのですが、(彼女のような)国際的に有名な女優を起用されていますが、元々彼女の素質というか演技力に注目されていたのでしょうか。また会見では、演技経験のないトマ君と信頼関係を作ることを彼女に率先してやってもらったとも伺いましたが、撮影の舞台裏でのそんなトマ君とセシルさんのやり取りなど教えて頂けますか?
D:まずセシル・ドゥ・フランスについては、もちろん他の監督の撮った映画の中で今までも観ていました。もちろんクリント・イーストウッドの『ヒア・アフター』(10)でも見ましたし、グザヴィエ・ジャンノーリの『Quand j’etais chanteur (私がもし歌手だったら)』(06)という映画の中でも見ましたし、セドリック・クラピッシュの作品(『スパニッシュ・アパートメント』(02)『ロシアン・ドールズ』(05))にも彼女は出演しています。(ただ)シナリオを書く前からセシルのことを考えていたわけではありません。シナリオを書き終わった時に彼女のことを思いついたのです。なぜならば、その後の役を演じるにはスクリーンに入った途端、一緒に光や暖かさが入ってくるような、そういう女優でなければいけないと思ったからです。そしてその光、暖かさがこの映画の全体を通じて続いていかなければなりません。セシル・ドゥ・フランスならばそれが出来ると思いました。セシル・ドゥ・フランスを選んだ理由はそれです。それから会見で言った信頼関係についてですが、セシルはすぐにトマという13歳の男の子が女性に対して羞恥心があって自分の母親でもない女性に抱きつくとか、体に触ることに抵抗があることをすぐに理解しました。そこでセシルはそうした肉体的な接触がごく普通の陳腐なことであるというふうに、段々とトマに分からせていったのです。少しずつ自分とトマがいい仕事仲間だという雰囲気を作っていき、そうすることによってトマの中の羞恥心を無くさせることに彼女は成功しました。それからトマからセシルに向かって与えられたものもあります。それはトマを見ていると、子供ですから演技をしたことがない、カメラはそういうどうしようもない子供の直接の存在感を捉えます。それしかないのです。技術を持たない子供の自然な存在感。ですから、そういった子供が相手役である時、自分がいくら女優であっても同じような在り方をするしかない。技術に頼らないで自然にそこに存在をすることしか出来ないということをセシルもトマのおかげで理解したようです。

Q:お2人の映画、そしてこの映画にも特にそうですが、お2人は子供の小さな表情や心の動きを凄く細かく捉えていると思います。それは元々2人には見えているのですか。それとも、撮りながら発見しているということもあるのですか。なぜそれが2人には見えているのでしょう?
D:自然にそうだって決まっている部分があります。例えば『少年と自転車』で、彼の自転車を想像した時に、最初からマットガードの付いていない自転車を想像しました。アクロバットが出来るようにということです。衣装にしてもそうです。観客の方はそうした細かい点から主人公、それから登場人物たちの感情を、それではこういう感情だろうと推測するわけです。例えば、顔に引っ掻き傷を作るところとか、そうしたことは撮影に入る前から決まっていたことです。また、撮影中に見つけていく部分もたくさんあります。俳優の方から提案をしてくれる時もあります。例えば、木から落ちて横になっている時、どういう横になり方なのか、どういう体の向きなのかといったことも撮影中に決めたことです。落ちる前の枝の捉え方、木を二本捕まえるんじゃなくて一本捕まえるとか、そういった細かいことはリハーサルの間や撮影中にいろいろと試してみて、段々と見つけていくのです。例えば、キャンピングカーの後ろに体が隠れて石を投げた子が見えない。それからその子がキャンピングカーの後ろに向かっていき、二人きりになり、石を投げた子が、彼が死んでしまったのではないかと思って怖くなってしまう。そういったことを、段々と撮影中にいろいろと試してみて、見つけていくスタイルです。それから例えば、パンクしたタイヤとか、それに釘がささっているところなど、撮影中に見つけていくことはたくさんあります。ですから最初から見えているのか、あるいは撮影中に見つけたのかを、一様に答えることは出来ません。また、どんな人生でもあり得ます。少年が自転車で走っていく長い引きのカットがあるのですが、録音技士がまずペダルを踏む音をベダルの近くで録音し、それから今度は道にタイヤが触れる音を録音しました。そしてどんどん他の騒音を録って、それらを強くしていきました。こういう音の出ているところを強調することで、我々にとって彼に最も近くにいるやり方だと考えて音を作っています。観客にはおそらく聞こえないでしょうが。


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