OUTSIDE IN TOKYO
The Coen Brothers INTERVIEW

ジョエル&イーサン・コーエン『シリアスマン』オフィシャル・インタヴュー

3. ちょっとオタクっぽい小市民についての究極のジョークのようなもの

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──この映画にスターを起用しなかったのはなぜですか?
イーサン:設定を伝え、リアリティを感じてもらいたかった。その当時の人生のちょっとした断片とかね。映画スターを使うと、リアリティを根付かせるのが難しくなってしまう。ラリーは普通の人だ。だけど、映画スターだとスターが醸しだす雰囲気が出てしまう。僕らはこの風変わりな環境に観客を没頭させたかった。映画スターだと、どうしてもそうならない。
ジョエル:僕らはスター級のギャラを取らない映画スターを使って映画を作ってきた。そうすれば、予算に支配されることは決してない。もし、映画スターがやって来て、この映画にただで出演しようと言ってくれたとしても、それはそれで恐らくあまりいいアイディアではなかっただろう。だけれども、基本的に僕らにとって、マイケル・スタールバーグでも、ブラッド・ピットを使うにしても、フィルムメイカーとして撮影にはほとんど違いはないんだ。

──この映画は最初からコメディにするつもりでしたか?シリアスなドラマにもなりえた題材だと思うのですが。
イーサン:僕らは決してわざとそうしているわけではないんだ。ストーリーはストーリーだし、自由に感じて、笑ってくれればと思う。どっちでもいいんだけど。僕らが選んでいるわけじゃなくて、話がひとりでに展開するんだ。

──『シリアスマン』が参考にした小説はありますか?たとえば「ヨブ記」とか?
イーサン:それは面白いね。そんなことは思ったことがなかった。僕らの作品のように、感情が爆発することころがあるけど。でも、そんなことは考えたことがない。
ジョエル:『オー・ブラザー!』(00)のときのように、オデッセーのような叙事詩的な物語の類は考えていなかった。だが、故郷に戻ってくる男についてのことだと思うと、ちょっと自意識過剰気味なところはあったな。もっと古典的な感じにするかどうかは迷うところだった。でも、この映画が「ヨブ記」のようだとは僕らは思っていなかった。ただ、自分たちの映画を作っていただけだ。関連性については理解するが、僕らの考えではないね。
イーサン:この映画はちょっとオタクっぽい小市民についての究極のジョークのようなものでもあるんだよ。そのオタクっぽい小市民に災難がふりかかるんだ。僕らの脚本には書き方の作法がない。僕らはただ部屋の中を行ったりきたりするだけ。結構だらしなく、行きつ戻りつしている。

──最初から今のような世界的な経済危機の時に、このようなタイプの映画を作れる自信がありましたか?
ジョエル:このプロジェクトをスタジオに持ち込み、資金調達を頼んだ二年前より今のほうがこういう映画を作ることはより難しくなっているだろう。しかし、フォーカス・フィーチャーズとワーキング・タイトルの僕らがこれまでに一緒に仕事をした人々は、全面的に僕らの力になってくれた。この脚本は『ノーカントリー』(07)の前に書かれていて、アカデミー受賞前には融資されていたんだから。
イーサン:『ノーカントリー』とこの作品の脚本が同時期に書かれていたのは興味深いことだよ。


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