OUTSIDE IN TOKYO
Aktan Arym Kubat INTERVIEW

中央アジア天山山脈のふもと、キルギスの小さな村で”明り屋さん”と呼ばれる男がいる。”明り屋さん”は、アンテナの調節から電線の修理まで、村の電気にまつわる一切合財を引き受け、些細な用事でも村人のためなら自転車で駆けつけて行く。村人たちの暮らしを第一に考える彼は風車を作って村中の電気を賄いたいという大きな夢を持っている。そんな折、ラジオからは政情不安を伝えるニュースが流れ、村には私腹を肥やそうという都会の人間がやって来て、”明り屋さん”のアイディアに着目し村の改革を促す自らの陣営に取り込もうとする。

『あの娘と自転車に乗って』『旅立ちの汽笛』といった自伝的作品で世界に愛されるアクタン・アブディカリコフ監督が、9年振りの新作の製作にあたって、名前をロシア名からキルギス名のアリム・クバトに変え、自ら主人公の”明り屋さん”を演じた『明りを灯す人』は、キルギスの美しく雄大な自然を背景に、変わりゆく世界の流れに翻弄されながらも、慎ましくも逞しく生きてゆく人々の姿を独特のユーモアと豊かな詩情を交えて描き、名もなき人々の単純ではない”人生”を明るく照らし出す。

”日常を詩情化する男”、”シネマの印象派”とも称される、キルギス在住のアクタン・アリム・クバト監督に、日本語→英語→ロシア語の翻訳を通じて実現したメールインタヴューをお届けする。

1. ”明り屋さん”の人物造形は、自伝的なものであると言う事もできますが、
 私の奥さんにこのインタヴューを読まれると困ります

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OUTSIDE IN TOKYO (以降OIT):この素晴らしい俳優は一体誰なんだと思いながら、映画を拝見したのですが、後で監督ご自身が演じていると知って驚きました。演じている時にどのような心境でしたか?
アクタン・アリム・クバト(以降AAK):まず感じたことはもちろん「興奮」ですね。始めて演じる役ですし、全ては自分自身を通して表現されるものでしたし。最初のシーンを撮った時のことまでも覚えています。どのシーンでも涙がでて胸が詰まりました。クルー達が、「明り屋さん」がまた泣くぞ、と茶化すほどにね。興奮しきっていたのと、普段から役柄に没頭しがちだったこと、また、どう演ずるのか分からなかったことでどうしようもなかったのです。殆どのシーンで、私の拍動が早くなり声の抑揚まで変わったことをサウンドエンジニアにもからかわれました。クリップマイクを付けていましたからね。サウンドエンジニアには私の拍動まで聞かれていたのです。悲しみのシーンに限らず、喜びにも涙はでました。感極まる涙ですね。

OIT:主人公「明り屋さん svet-ake」の人物造形について。屈託のない笑顔の持ち主の善人であり、村のエネルギー資源について考えを巡らせる社会思想家であり、村の明りを一手に引き受ける技術者でもあり、妻を愛し愛されつつも、同時に別の女性に恋心を抱く、善き父親でもあるという、実に人間らしい複雑さを備えた人物造形がなされています。この人物はどのように作られたのでしょうか?
AAK:どんなフィルムも、あるいはイメージも、なんらかの形で自伝的になり得ます。人間性の複雑なイメージを受けたのであれば、私に結びつくでしょう。私の世界感や人生に対する姿勢にね。だからといってこのインタビューを私の奥さんに読まれると困るけれど。他の女性に好ましい感情を抱いていると思われてしまいますから。現実にはそうではありません。しかし一夫一婦であることへのコンプレックスはあります。人は美しい女性と関わりを持つべきですから。その思いが映画に投影されているのです。私がある一面だけに固執していたら、つまらない人間になってしまうと思う。ですからこの複雑さを常に保ちたいのです。

OIT:主人公の妻は、夫に対して母親のように振る舞う時があります。その他の登場する女性たちもとても逞しい生活力を示しています。これはキルギスでは一般的な傾向でしょうか?
AAK:私のフィルムに取り上げられている題材には全てルーツがあります。それが通俗的な伝統や、何らかの家族関係にまつわるものであればキルギスのそれでしょう。少なくとも私の家族に基づくことでしょうね。明り屋さんの奥さんの母親じみた接し方は、私自身の妻の態度にもみられます。彼女は私を指して、長男のアクタン、と言ったりしますから。女性の逞しい生活力を感じ取っていただいたようですが、明り屋さんの奥さんにも強い能力があります。キルギスの女性は一般的に生活への順応力があると思います。家長が女性だったりする遊牧民文化によるものなのかもしれません。このような伝統は地方の家庭には多く残っています。

『明りを灯す人』
原題:SVET-AKE

10月8日(土)シアター・イメージフォーラム 他、全国順次ロードショー!

監督・脚本・主演:アクタン・アリム・クバト
脚本:タリブ・イブライモフ
撮影:ハッサン・キディラリエフ
出演:タアライカン・アバゾバ、アスカット・スライマノフ

2010年/キルギス、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ/1:1.85/ドルビーデジタル/80分
配給:ビターズ・エンド

『明りを灯す人』
オフィシャルサイト
http://bitters.co.jp/akari/
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