2013年4月25日

『セデック・バレ』ウェイ・ダーション

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荒ぶる魂が、台湾映画の覚醒を告げる
star.gifstar.gifstar.gifstar.gif 上原輝樹

本作の監督、ウェイ・ダーション氏には『海角七号/君を想う、国境の南』(08)の時に、監督が来日された時にお会いしていて、『海角〜』の印象と相俟って、誠実で、ユーモア溢れる温厚な御方だという印象を持っていたが、『セデック・バレ』<第一部:太陽旗>の冒頭を観て、ひっくり返りそうになった。これが、あの『海角〜』のウェイ・ダーション監督の新作か!というのが第一印象である。

緑の深い山岳地帯の渓谷を、逞しい脚を持った若い男たちが、傾斜の激しい密林地帯と川辺を行き交い、弓矢を放ち剣を振りかざして部族同士の闘いに明け暮れる、冒頭のアクションシーンが実に素晴らしい。後で調べると、アクションを監督したのは『オールド・ボーイ』(03)や『モンガに散る』(10)を手掛けたヤン・ギルヨン、シム・ジェウォンらの韓国勢とのことで、なるほどと納得したが、驚異的な身体能力を見せるセデック族(実際には、セデック族の他に、タイヤル族やタロコ族もキャスティングされているという)の面々の身のこなしには心底驚かされる。

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『セデック・バレ』は<第一部:太陽旗>と<第二部:虹の橋>で構成される、日本統治下の台湾で起きた「露社事件」を描いた全編4時間半の歴史大作であると同時に、民族の蜂起を生々しく描いた映画としても注目に値する。台湾の山奥深くに住むセデック族(6社)の男は、先祖からの伝承で、誇り高くあること、"真の勇者(セデック・バレ)"であることを宿命付けられている。"真の勇者"であると認められるのは、自らの狩り場を守るために敵対する種族(社)と一戦を交えて、相手の首を狩らなければならない。それを成し遂げた者は、顔に黒い入れ墨を彫ることを許され、死後の世界の検分で"真の勇者"として見分けられることになる。この、親から子へ口頭伝承される言い伝えが、彼らのアイデンティティとなっている。

しかし、1895年に日清戦争の下関講和条約で、台湾が日本の統治下になると、外からやってきた日本軍が彼らを圧倒的な近代兵器で制圧してしまう。誇りを奪われた彼らは、日本軍が"教育"として施した"近代文明"(学校、郵便、警察 etc)を受け入れたかに思えたが、"真の勇者"は先祖の魂を失っていなかった。日本の統治下に入ってから35年を経た1930年、"運動会"の日に蜂起したセデック族は"血の儀式"を決行、太陽旗(日章旗)を燃やし、日本人が植民していた山村の村一帯を日本人の血で染める。史実に基づいた描写は、凄惨を極め、この事件による日本人の死者は134名に登ったと記録されている。血塗られた光景を前に、セデック語の女の歌声が痛切に響き渡る。「なぜこんなことになってしまったのか?あなたは、セデック・バレの子だというのに。」男語りの"勇者"の言い伝えと、流血の惨事を憂う、子を想う母親の歌が、映画の行く末を暗示しながら、<第一部:太陽旗>は終わりを告げる。

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<第二部:虹の橋>では、より凄惨な事態が観客を待ち受けている。叛旗を翻したセデック族に対して日本軍は、大量の人員と兵器を動員、さらには、セデック族の首領モーナ・ルダオに反目する別の社を味方に引き入れ、女や子供も含めて、セデック族の首に懸賞金を掛け、徹底的な制圧に乗り出した。しかし、驚異的な身体能力と地の利を活かしたゲリラ戦を闘うセデック族の前に日本軍は苦戦を強いられるのだが、、。ここから先は、是非、ご自分の眼でご覧になって頂きたい。

『セデック・バレ』は、優れた"アクション映画"であると同時に、セデック族という失われゆく人々の魂の闘いを描いた"鎮魂歌"であり、何よりも、私たちが共存する未来へ向けた"祈り"であり"架け橋"、そのもののような映画だ。この映画には、今、日本に住む私たちが知っておいた方が良い歴史が描かれている。人が、全てを経験からしか学べないのであれば、人類に未来はないだろう。

 
4月20日(土)より、全国劇場公開

監督・脚本:ウェイ・ダーション
製作:ジョン・ウー、テレンス・チャン、ホァン・ジーミン
撮影監督:チン・ディンチャン
プロダクションデザイン:種田陽平
美術プロデューサー:赤塚佳仁
音楽:リッキー・ホー
アクション監督:ヤン・ギルヨン、シム・ジェウォン
出演:リン・チンタイ、マー・ジーシアン、安藤政信、河原さぶ、ビビアン・スー、ダーチン、木村祐一、春田純一、シュー・イーファン、スー・ダー、ルオ・メイリン、ランディ・ウェン、ティエン・ジュン、リン・ユアンジエ、田中千絵

© 2012 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

2011年/台湾/カラー/第一部「太陽旗」144分・第二部「虹の橋」132分(計276分)/シネマスコープ/HD
配給:太秦

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