1968年に西日本一帯で発覚した戦後最大の食品公害"カネミ油症事件"、その被害者のその後を10年間に渡って追った本作『食卓の肖像』は、被害者たちの命を脅かした症状(遺伝による奇形、内臓障害、重篤な皮膚症状等)や、その被害が今尚続いている現状を伝えると同時に、被害に遭った人達の、あまりにも豊かな人間性を捉えたドキュメントになっている。ナレーションではなく、画面上の字幕を読ませる手法に疑問は感じるものの、本作においては、内容が形式の不完全さを凌駕している。
不勉強の誹りを免れないかも知れないが、自分の生年に近い頃に、このような事件があったということを、私はこの作品を観て初めて知った。作り手にはきっと、世間に多く存在していると思われる私のような輩にも、"カネミ油症事件"という非道な事件を伝え、私たちの"食卓"にのぼる食品の成り立ちについて一考を促したいという意図があったに違いない。
しかし、金子サトシ監督自らが構えたカメラが捉える、彼/彼女らが自らの家族について語る言葉と表情には、愛と思いやりという人間が持ちうる最大の美徳が臆面もなく溢れ出し、映画だ、としか言えない瞬間が舞い降りる。亡くなった夫は、いつも君は世界一の美人だね、と言ってくれたと語る婆さまの登場にはもはや涙で応えるしかない。10年間に渡る取材で見えてきた"食卓の肖像"とはすなわち、それぞれの食卓を囲む家族の歴史、"家族の肖像"に他ならなかったのだろう。