2013年4月11日

『食卓の肖像』金子サトシ

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映画だ、としか言えない瞬間が舞い降りる、
"カネミ油症事件"を伝えるドキュメンタリー
star.gifstar.gifstar.gif 上原輝樹

1968年に西日本一帯で発覚した戦後最大の食品公害"カネミ油症事件"、その被害者のその後を10年間に渡って追った本作『食卓の肖像』は、被害者たちの命を脅かした症状(遺伝による奇形、内臓障害、重篤な皮膚症状等)や、その被害が今尚続いている現状を伝えると同時に、被害に遭った人達の、あまりにも豊かな人間性を捉えたドキュメントになっている。ナレーションではなく、画面上の字幕を読ませる手法に疑問は感じるものの、本作においては、内容が形式の不完全さを凌駕している。

不勉強の誹りを免れないかも知れないが、自分の生年に近い頃に、このような事件があったということを、私はこの作品を観て初めて知った。作り手にはきっと、世間に多く存在していると思われる私のような輩にも、"カネミ油症事件"という非道な事件を伝え、私たちの"食卓"にのぼる食品の成り立ちについて一考を促したいという意図があったに違いない。

しかし、金子サトシ監督自らが構えたカメラが捉える、彼/彼女らが自らの家族について語る言葉と表情には、愛と思いやりという人間が持ちうる最大の美徳が臆面もなく溢れ出し、映画だ、としか言えない瞬間が舞い降りる。亡くなった夫は、いつも君は世界一の美人だね、と言ってくれたと語る婆さまの登場にはもはや涙で応えるしかない。10年間に渡る取材で見えてきた"食卓の肖像"とはすなわち、それぞれの食卓を囲む家族の歴史、"家族の肖像"に他ならなかったのだろう。

 
4月6日(土)より、新宿K's cinemaにてモーニングショー

製作・監督:金子サトシ
撮影:内野敏郎、金子サトシ、福本淳
整音:伊藤 裕規
スーパーバイザー:土屋豊、Our Planet-TV
協力:カネミ油症被害者支援センター、原田正純、保田行雄、古木武次、宿輪敏子、明石昇二郎、川名英之、河野裕昭、奥野安彦、高崎裕士、永尾喜美子、重本善十、渡部寛吾、中内弘治、福島瑞穂、阿部知子、辻豊史、堀傑ほか
証言者:真柄繁夫、真柄ミドリ、渡部道子、矢野忠義、矢野トヨコ、重本加名代、重本澄代、中内郁子、中内孝一、中内健二、公文喜久恵、矢口哲雄、高山美子

2010年/日本/カラー/デジタル/103分
配給:『食卓の肖像』上映委員会 /オムロ

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