OUTSIDE IN TOKYO
SETA NATSUKI INTERVIEW

瀬田なつき監督が、橋本愛を主演に迎えて、井の頭公園100周年記念の映画を撮る、エグゼクティブ・プロデューサーがboidの樋口泰人氏、プロデューサーが『カナリア』(04)や『岸辺の旅』(15)を手掛けた松田広子氏との知らせを聞いて、期待は高まるばかりだったが、律儀に、井の頭公園開園100周年を迎える5月の桜の季節に公開を間に合わせてきた本編をついに見ることが出来て、とても幸せな気分に包まれたことをまずは最初に告白しておく。

個人的に、井の頭公園は母親の実家からほど近い距離にあることもあって、子供の頃に頻繁に遊びいった愛着の深い場所であるし、吉祥寺も自分にとって特別に思い入れの深い街だということもある。つい先日ツイッターのタイムライン上を流れてきた保坂和志氏の言葉とされるbotのツイート「人間は「個」として完結しているわけではなくて、いろいろなことを場所・時間・物に預けて、それらの力を借りて呼び出すようにできているのだ。」という言葉が見事に言い表してるように、私のことはさておき、多くの人々にとって、井の頭公園や吉祥寺という街はそのような特別な存在としてあり続けているに違いない。

そんな多くの人々が愛着を持っている井の頭公園と吉祥寺を舞台にした映画『PARKS パークス』が、音楽映画として作られていること自体が、至極当然のこととはいえ喜ばしい。ギターを爪弾く橋本愛の瑞々しさ、弾き語りで歌われる澤部渡(スカート)の不意打ちの名曲「離れて暮らす二人のために」の素晴らしさ、『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(17)で初めて石橋静河を見たものにとっては驚き以外の何ものでもない彼女の抜群の歌唱力、ライブハウスで重い空気を切り裂くギターの爆音、そして、ミュージカル的賑わいを見せる「PARK MUSIC」の開かれた空間で音楽が鳴り響くことの歓び、どれもが音楽文化を育んできた井の頭公園、吉祥寺の街に相応しいというだけでなく、新たにその地の力能を呼び覚ますような生命の輝きに満ちている。

もちろん、『PARKS パークス』は音楽映画として素晴らしいだけではなく、脚本も手掛けている瀬田なつき監督の、映画=フィクションに対する聡明な戦略が功を奏しており、極めて現代的なメタフィクション映画としての魅力も放っている。ふわっとした丁度良い空気感で見事にハルを演じ、物語と物語の間の境界線を消し去ってしまった永野芽郁の存在感は、どこか演出の意図すら超えて生起しているように見えることも、この映画にとっては僥倖だろう。加えて、このノリはどこからやってきたのか?謎のテンションの演技を見せる染谷将太が、”失敗”を恐れたかもしれない共演者たちに、”外れる”ことの勇気を齎したであろうことは、監督のインタヴューからも伝わって来るはずだ。

今から約7年前、梅本洋一氏が企画した「未来の巨匠たち」の特集上映で、初めてその瑞々しい作品群に触れて、瀬田なつき監督の存在を知った私にとって、今回、この作品で監督にインタヴューを行うことができたのは、歓び以外の何ものでもなかった。この暗い時代にあって、瑞々しい生命の息吹と一陣の風の流れを感じさせてくれる『PARKS パークス』を劇場でご覧になって、インタヴューをご一読頂ければ幸いである。

1. 橋本愛さんの今までとは違う面を出せて面白いんじゃないかなと

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):最初にキャスティングについてお伺いしたいのですが、染谷将太さんとはもう何度かご一緒にされていますけれども、橋本愛さん、永野芽郁さん、石橋静河さんとは初めてですね。どういう風にキャスティングが決まったのか教えて頂けますか?
瀬田なつき:橋本さんは今まで出演している映画では、凄く凛としていて、強いイメージを持っていたんですがメイキング映像を見たら、オフな感じ、力が抜けた感じの“橋本愛”の裏側が映っていて、凄くふにゃっとしてるんです。意外な可愛いさというか、違う一面があるという印象を受けました。そういう2つの面を、シナリオに落としこんで表現して、柔らかい面を映せたら面白いし、橋本さんも今までとは違う面を出せて面白いんじゃないかなと思ったんです。ギターも何年か前に練習してたことがあるということで、まさに映画の設定とも似ていて。お会いした時にこちらでギターを用意して、無茶言って好きな曲を何曲か弾いてもらったんです。その時も“まだ指が、、、”と言いながらも楽しそうに歌ってくれて、柔らかい雰囲気のある方でした。

OIT:瀬田さんが橋本さんに決めたという感じだったのですか?
瀬田なつき:橋本さんは、吉祥寺バウスシアターや閉館前のラストバウスにも通っていたと、エグゼクティブプロデューサーの樋口(泰人)さんも仰っていたので(笑)、プロデューサーの松田さんからも、いいんじゃない?と。それから出演が決まって、実際にお会いした時、モヤモヤしてる大学生っていう設定だったので綺麗過ぎやしないかなとか思いましたが、やっぱりどこか芯が通ったところが見える方が魅力になるよねっていうことも話していました。

OIT:芯が通ったところはやっぱり見えましたよね。
瀬田なつき:そうですね、シナリオだけ読むと、もっとふにゃふにゃっとした感じだったんですけど、橋本さんが演じたことで、なにかをやりたいんだけど進めない、どこかに芯が一本通った感じが出たと思います。

『PARKS パークス』

4月22日(土)よりテアトル新宿、4月29日(土)より吉祥寺オデヲンほか全国順次公開

監督・脚本・編集:瀬田なつき
企画:本田拓夫
ゼネラルプロデューサー:樋口泰人
プロデューサー:松田広子
ラインプロデューサー:久保田傑
音楽監修:トクマルシューゴ
撮影:佐々木靖之
録音:髙田伸也
美術:安宅紀史
スタイリスト:髙山エリ
ヘア・メイク:有路涼子
助監督:玉澤恭平
制作担当:芳野峻大
出演:橋本愛、永野芽郁、染谷将太、石橋静河、森岡龍、佐野史郎、柾木玲弥、長尾寧音、岡部尚、米本来輝、黒田大輔、嶺豪一、原扶貴子、斉藤陽一郎、麻田浩、谷口雄、池上加奈恵、吉木諒祐、井手健介、澤部渡(スカート)、北里彰久(Alfred Beach Sandal)、シャムキャッツ、高田漣

井の頭恩賜公園100年実行委員会100年事業企画
© 2017本田プロモーションBAUS

2017年/日本/カラー/118分/シネマスコープ/5.1ch
配給:boid

『PARKS パークス』
オフィシャルサイト
http://www.parks100.jp
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