OUTSIDE IN TOKYO
Mike Mills INTERVIEW

グラフィック・アーティストとして知られるマイク・ミルズは長編デビュー作『サムサッカー』(05)の繊細な描写と、ところどころにグラフィックで培われた独特の視覚言語でどこかとどこかの間にいる“気分”を表現した。シンプルでありながらパーソナルで、入りやすいのに政治的だったりもする。そんな儚くも愛らしく、かわいくも辛辣な世界は、彼が長年撮ってきたCMやPVでも見られるが、その後彼の興味はドキュメンタリーへと向かう。抗鬱剤を使う人たちを日本で取材していたのも記憶に新しい。そうして彼が2作目の長編に選んだのが75歳で自分がゲイだとカミングアウトした父の物語だった。自分の分身とも言える父の変わり様に戸惑う息子に自分を反映した自伝的とも言える映画『人生はビギナーズ(原題:Beginners)』は、まさに“生きること”、“受け入れること”を伝える素晴らしい映画となった。そこへ、死に向かって前向きに動き始めた父とは対照的に、人とどう繋がっていいか分からず、新しく出逢った女性との恋愛に踏み切れない自分の恋愛感も描かれ、物語は大きな円を描いていく。それに加えて、父がオリバーに遺したジャックラッセル犬のコスモが思いのほか物語を進める求心力になっている。語らないことで多くを語るマイク・ミルズの世界をまさに代弁しているようだ。

自伝的な映画を撮る場合、どこまでを自伝的にするかは大きく迷うところだろう。カミングアウトする父の背景は言うまでもないが、マイク・ミルズの父もミュージアム・ディレクターだった。少しエキセントリックで芸術的な母もほぼ本人の説明に近い。主人公オリバーはグラフィック・デザイナーであり、もっと意味深い仕事をしたいとアルバムカバーのデザインを提案しても理解されない。そのバンドとしてSADSが登場するが、ディレクターズ・ビューローの一員でもあり、グラフィックから映像を撮るマイク・ミルズの仕事でもあり日常だ。そして本人も片時も離れない犬を飼っている。犬と見つめ合い、心の会話を口にする様は想像に難くない。

今作は息子オリバー役にユアン・マクレガー、父親ハル役にクリストファー・プラマーという演技派かつ“有名”な役者を手に入れたことも無関係ではないかもしれないが、ゴールデングローブ、アカデミーのノミネートなど瞬く間に“小さな滴”は波紋を広げるように人々の心を震わせていった。そんなマイク・ミルズは来日こそ果たせなかったが、自分が通訳を務めた電話での合同インタビューを皆さんのご好意で公開させてもらうことになった。賞レースで多忙な彼を同じ質問で煩わせるのもはばかられたが、インタビューは、彼のシルバーレイクに近いLAの自宅オフィスの空気感がそのまま流れてくるようなリラックスした空気を漂わせていた。どんな時でも相手を緊張させない、彼の人となりはここでも、そして映画にも流れていることが分かるだろう。

1. メラニーは野生の動物のようだ。僕はそこに魅了された

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Q:(今回、息子オリバーを演じた)ユアン・マクレガーとの仕事はどうでしたか?
Mike Mills(以降MM):まず、(結果的に)ユアンとはとてもいい友人になり、素晴らしい映画のパートナーになれた。実際、予算が集まらない時も彼は不安がらずに待ってくれた。彼はとても自然に演技を進めていく。彼の存在感や繋がり方を見れば分かると思う。あまり演技というものをしないのかも。人と一緒に何かをするというより、もっと微妙なニュアンスの演技を見せて、周りの人をよく見せてくれる。(父親ハル役)クリストファー(・プラマー)と(息子のカノジョ役)メラニー(・ロラン)の関係もとても自然だ。

クリストファーはすでにあらゆることを経験し、乗り越えてきている。いろんな人と仕事をしてきているから、最初はそこが少し不安だった。それでも仕事への集中力はすごいし、(何よりも)仕事に一生懸命だ。彼はカナダ人だけど、カナダ人はきちんと働き、威張らない人が多いことで知られている(笑)。彼は他の俳優と一緒に仕事をするのも好きみたいだ。僕が一緒の時は79歳だったけど、巨匠然としたところもなく、いい演技のための努力を怠らない。彼の仕事はとても自然で、本当に集中して進めていたよ。

Q:(息子のカノジョ役の)メラニー(・ロラン)とはどうでした?
MM:メラニーは野生の動物のようだ(笑)。僕はそこに魅了された。彼女はとても直感的で、感覚の流れに身を委ねることができる。いい意味で予想がつかない。そして一瞬に対してとてもリアルで真実がある。同時に、彼女自身も脚本家で監督でもある。だからシーンの連続性を見失わないし、カメラがどこにあるのかも常に把握している。とても知的で、自然にテクニカルなことが分かる人で、物事をどう成し遂げるべきかを理解している。そうしたところから直感へ飛び込むのがとてもうまい、僕の好きなタイプの役者だ。

『人生はビギナーズ』
原題:Beginners

新宿バルト9、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

監督・脚本:マイク・ミルズ
プロデューサー:レスリー・アーダング
撮影監督:キャスパー・タクセン
編集:オリヴィエ・ブッゲ・クエット
衣装デザイン:ジェニファ−・ジョンソン
音楽:ロジャー・ネイル
チーフ・アニマル・トレーナー:マティルディ・ドゥ・キャグニー
出演:ユアン・マクレガー、クリストファー・プラマー、メラニー・ロラン、ゴラン・ヴィシュニック

2010年/アメリカ/105分/カラー/ドルビーSR・SRD/ビスタサイズ
配給:ファントム・フィルム、クロックワークス

© 2010 Beginners Movie, LLC. All Rights Reserved.

『人生はビギナーズ』
オフィシャルサイト
http://www.jinsei-beginners.com/
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