OUTSIDE IN TOKYO
KALTRINA KRASNIQI INTERVIEW

2021年の今年から新たに市山尚三氏がプログラミング・ディレクターに就任した第34回東京国際映画祭コンペティション部門では、15作品(10作品がワールド・プレミア、5作品がアジアン・プレミア)が、六本木ヒルズから日比谷・銀座エリアに移った新会場で上映された。筆者が映画祭開催期間中に見ることが出来たコンペティション作品は、15作品中11作品(『復讐』『三度目の、正直』『カリフォルニエ』『その日の夜明け』『もうひとりのトム』『ザ・ドーター』『オマージュ』『ヴェラは海の夢を見る』『ある詩人』『アリサカ』『一人と四人』)に留まるが、この内の8作品(『三度目の、正直』『カリフォルニエ』『もうひとりのトム』『ザ・ドーター』『オマージュ』『ヴェラは海の夢を見る』『アリサカ』)は女性が主人公、もしくは、かつての植民地からの女性視点による異議申し立て(『その日の夜明け』)であり、MeToo以降の現代性、映画の多様性というグローバルに進行中の意識改革の流れを大いに感じさせるものだった。

中でも、韓国女性映画の先駆者へのオマージュそのものである韓国映画『オマージュ』(シン・スウォン監督)と、見事に”東京グランプリ”に輝いた本作『ヴェラは海の夢を見る』は、そうした新しいフェミニズムの流れを象徴する2作品として強く印象に残っている。こうした現代的潮流に直接接続しているわけではないが、実利主義が支配的な現代という時代において詩人、芸術家として生きることの困難を、権力に抗って処刑された19世紀詩人への思慕と、”上手くやること”との間で揺れ動く、妻子ある”詩人”の姿を通じて描いたカザフスタン映画『ある詩人』のダルジャン・オミルバエフ監督が、”最優秀監督賞”という然るべき賞を受賞したことも、イザベル・ユペール審査委員長をはじめとして、映画監督青山真治、批評家クリス・フジワラ、プロデューサー・キュレーターローナ・ティー、音楽家世武裕子といった、経験豊かな識者が揃った今年の審査委員の質の高さを裏付けるものだ。

『ヴェラは海の夢を見る』は、手話通訳を職業とする中年女性ヴェラが、突然自殺した夫のギャンブル負債の抵当になった家の権利を譲渡するように迫る、親族や裏社会の者たちからの脅迫まがいの仕打ちに対して、静かに、しかし力強く、抵抗していく姿を、男性優位な社会における”女性の視線”に徹して描いた、”いかなる映画的スペクタクルをも排した、地に足のついた”作品である。主人公ヴェラに自らの母親とその同世代の女性たちへのオマージュを込めた本作が長編劇映画デビュー作となったコソボ出身のカルトリナ・クラスニチ監督は、脚本、撮影、美術といった映画製作の主なスタッフをすべて女性で固め、力強い一歩を踏み出している。ここに、『ヴェラは海の夢を見る』の一般上映とQ&Aが終わった直後に、Zoomにてカルトリナ・クラスニチ監督にお話を伺ったインタヴューを掲載する。

1. 1990年代にコソボは侵略されていた、そういう時期に私は青春時代を過ごしています

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):今年の東京国際映画祭コンペティション部門の作品は、多くの作品が女性を主人公とした作品で、新しいフェミニズムの流れというのを明確に感じさせる中で、韓国映画の『オマージュ』とこの『ヴェラは海の夢を見る』が今年のセレクションを象徴するような作品だったかと思います。最初の質問ですが、今回、初めての長編監督作品が日本で上映されたということになりますので、監督が今までどのような映画教育を受けてこられたのか簡単に教えていただけますか?
カルトリナ・クラスニチ:まず、クリスティーナというコソボの大学で映画監督の勉強をしました。それから一年間ロサンゼルスのUCLAでプロデューサーの勉強をしました。また、メディア&コミュニケーションの勉強で修士号を取得しています、これはコソボの方で受けた教育です。ただ、実際に映画を作り始めたのはフィルム・スクールに通う前からです、内戦(コソボ紛争1998〜1999年)が終わってすぐの18歳の頃には、もう映画を作っていました。

OIT:かなり若い頃からシネフィルというか、映画をたくさんご覧になって、自分でも作りたいと思うようになったということでしょうか?
カルトリナ・クラスニチ:そうですね、とても若い頃から観て作りたいと思っていました。
OIT:コソボの映画の環境というか状況というのは、例えば、昔の古典映画のようなものが観れるような環境が、何らかの方法であったということでしょうか?
カルトリナ・クラスニチ:私が育ったのは1990年代でコソボが侵略されていた、そういう時期に私は青春時代を過ごしています。今でもよく覚えてるんですけど、私がまだ11歳で、1992年のことです、母親が仕事帰りに、VHSプレーヤーを買ってきてくれたんです。丁度、家の近所にビデオ屋さんがあって、当時は外に出るのがあまり安全な状況ではなかったので、妹と私は本当に一日中家の中にいて映画を観ていたのです。映画はもちろんのことですが、文学や演劇に対しても小さい頃からとても興味を持っていました。戦争が終わって、中学校を卒業して、高等教育が終わった後、本当に自分がやりたいことは何なのかを自分自身で確認したかったので、ここで一旦、休みをとってもいい?と母親に聞きました。それで、いいわよと言われたので、その後すぐに、私は学校で映画を学び始めました。以来、私は一度も止まらず映画を作り続けています。


『ヴェラは海の夢を見る』
英題:Vera Dreams of the Sea

監督:カルトリナ・クラスニチ
出演:テウタ・アイディニ・イェゲニ、アルケタ・スラ、アストリッド・カバシ

© Copyright 2020 PUNTORIA KREATIVE ISSTRA | ISSTRA CREATIVE FACTORY

87分/カラー/アルバニア語/2021年/コソボ・北マケドニア・アルバニア

『ヴェラは海の夢を見る』
東京国際映画祭公式サイト
https://2021.tiff-jp.net/
ja/lineup/film/3401CMP15


<第34回東京国際映画祭>
開催期間:2021年10月30日(土)~11月8日(月)
会場:日比谷・有楽町・銀座地区
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