『ハッピーエンドが書けるまで』オフィシャル・インタヴュー
テキスト:上原輝樹 |
『ハッピーエンドが書けるまで』は、『きっと、星のせいじゃない』(14)が記憶に新しい、ジョシュ・ブーン監督の”夢”がぎっしり詰まった、愛すべき長編処女作品である。映画の舞台は、ノースカロライナ州のライツビーチ、海沿いの一軒家に住む小説家一家を描く、個性豊かな家族の群像劇だ。
父親のビル・ボーゲンズ(グレッグ・キニア)は、小説家として名声を確立しているが、3年前に捨てられた妻(ジェニファー・コネリー)への思いを断ち切れずにいる。長女のサマンサ(リリー・コリンズ)は、長編処女作が出版されつつある、”小説家一家”の花形選手。サマンサは、恋愛に関してクールに割り切っているように見えるが、それは、傷つくことから自らを守るための一種の方便でもある。次男のラスティ(ナット・ウルフ)は、姉のサマンサとは対照的に異性に対して奥手で、父親や姉からもっと人生を謳歌せよ、と焚き付けられている。ラスティも作家になることを夢見ているが、最初の一歩を踏み出せずにいる。
サマンサには彼女を一途に慕う、大学の同級生ルイス(ローガン・ラーマン)が現れ、ラスティにも、”天使のような”同級生ケイト(リアナ・リベラト)が現れる。しかし、原題『Stuck in Love』が予告しているように、ビルの元妻への愛も、ルイスのサマンサへの片思いも、ラスティのケイトへのプラトニックな愛も、思うようには進展しない。その行き詰まった愛が、心の奥の深い感情に揺り動かされて、駆動し始める瞬間の演出が素晴らしい。エリオット・スミスの名曲「Between the Bars」が完璧なタイミングで流れ、見るものの感情を激しく揺さぶる。
この映画に託されているのは、そうした行き詰まった”愛”、そして、人が生きているうちにやり遂げたいと願う”夢”である。その”愛”と”夢”を実現する舞台として、重要な”登場人物”のひとつが、一家が住んでいる”海沿いの一軒家”だ。”作家”は、何処か、人里離れた場所に住んでいる、という夢想のアーキタイプが、人にはあるのかもしれない。そのイメージに充分に応えてくれる”家”が本作には登場する。そうした”夢”の舞台を整えた上で、”文学”の養分をたっぷり詰め込み、ジョシュ・ブーンが自らの人生の”現実”そのものと向き合い、その全てを詰め込んだ、奇跡的とも言うべき幸福な処女作が本作だ。
『あと1センチの恋』(14)よりも、さらに溌剌として奔放な魅力を発揮しているリリー・コリンズ、小説家一家の父親を持ち前のユーモアで魅力的に演じるグレッグ・キニア、今、最も新作が楽しみな監督のひとり ジョシュ・ブーン、ジョシュの夢の実現に向けて一役を買った製作のジュディ・カイロ、4者のオフィシャル・インタヴューを掲載する。
1. 監督は、演じるのは役者だからと、自由に演じさせてくれました(リリー・コリンズ) |
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『ハッピーエンドが書けるまで』 英題:STUCK IN LOVE 6月27日(土)より、新宿シネマカリテ、渋谷シネパレスほか、全国順次ロードショー 監督・脚本:ジョシュ・ブーン プロデューサー:ジュディ・カイロ 出演:リリー・コリンズ、ローガン・ラーマン、グレッグ・キニア、ジェニファー・コネリー、ナット・ウルフ、リアナ・リベラト 2012年/アメリカ/97分/DCP 配給:AMGエンタテインメント 『ハッピーエンドが書けるまで』 オフィシャルサイト http://happy-movie.com |
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